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大震災時に備えた企業の事業継続計画(BCP)とは

2019/03/11 13:36 ウェザーニュース

3月11日で東日本大震災からちょうど8年が経ちます。震災が起きたときに企業はどのように対応をしたのか、総合商社、伊藤忠商事をはじめ3社の事例から、企業と事業継続計画(以下BCP)について考えてみます。

BCPを策定している企業は14.7%

企業が被災した時のための対応マニュアルのことをBCPと言います。中小企業庁では、BCPの有無によって災害への対応速度に差が出るとして、BCP策定を推奨しています。
しかし、帝国データバンクが公開した調査によると、「BCPを策定している」と回答した企業は14.7%、「現在策定中」の企業を併せても22.1%しかありません。

では、実際にBCPを策定していたことで被災しても円滑に対応できた事例を見てみます。

不測の事態にも迅速に対応できた3社

●伊藤忠商事
伊藤忠商事では、震災3日後の14日にBCP(事業継続計画)対策本部を立ち上げ、グループ全体の事業継続に乗り出しました。特に、東北支社ではオフィス家具の転倒などの大きな損害に見舞われたため、対策が急がれました。具体的には、社員の安否確認に始まり、被災状況の確認、社員への連絡手段の確保・再整備、大規模余震・突発的大規模停電に備えた緊急対応、東北支社・グループ会社への食材運搬などが行われました。その結果、約1週間後の3月22日には通常の体制での業務再開を達成しました。

●鈴木工業
想定外の大きな被害を受けたにも関わらず、早期の事業継続に成功した会社もあります。

産業廃棄物処理・リサイクル・上水下水道施設のメンテナンスを主業務とする鈴木工業は、JR仙台駅と仙台港との中間に位置していたため、本社とリサイクル施設は損壊、さらに産業廃棄物の中間処理施設が津波で流出し全壊してしまいました。

しかし、鈴木工業は震災当日の15時30分にBCP発動を決定、同日22時ごろまでに社員の安否確認を終えました。その後、業務提携している会社に衛星電話で連絡し、自社の被災状況調査を依頼したり、事業継続のために災害協定を結んでいる業者や他県の中間処理業者の協力を取り付けるなどの対応を進めました。こうした初動が功を奏し、被災から38日後の4月18日に完全復旧が実現しました。
鈴木工業の鈴木伸彌専務取締役は、BCAOアワード2011大賞(NPO法人事業継続推進機構が主催する、優れたBCP実践例に与えられる賞)受賞式の場で、「BCPでは大津波までは予測していなかったが、BCPに基づいて、社員一人ひとりが目標を認識して行動できたこと、他社の協力を受けて業務継続ができたことが重要だった」と述べています。

●オイルプラントナトリ
仙台空港に近い名取市で、工場からの廃油などを再生燃料としてリサイクル処理を行うオイルプラントナトリも、地震発生の約1時間後に大津波に襲われ、機材は海水に浸り、車両が津波に流されるなどの甚大な被害を受けました。

それでも、震災の約2ヵ月前の2011年1月に策定していたBCPにて、最初に「復旧するもの・しないもの」を明確に分類していたため、社員が一丸となって行動を開始することができました。

しかし当初は、トラックを動かす軽油が手に入らなかったといいます。その時、県外の競合他社が軽油を現地まで運んできてくれたため、事業復旧に着手できたといいます。BCPを策定する過程で競合他社とも協力体制を築いていたからこその成功例です。

特に重要なのは共助

企業が被災した時のキーワードは「自助7、共助2、公助1」と言われています。紹介した3社とも、事前に入念な準備をしていたものの、被災した際、現地だけでの対処には自ずと限界が生じました。その穴を埋めたのは被災していない本社や、関連会社による支援でした。

東日本大震災における大津波のように、どれだけ用心しても想定しきれない災害があります。3月11日を迎えるこの機会に、みなさんの勤め先のBCPがきちんと策定されているか、いま一度確認してみませんか。

参考資料など

伊藤忠商事「東日本大震災への対応について」、鈴木伸彌「東日本大震災被災に伴う BCP 発動について」(事業継続推進機構『BCAO News』2012年)、中小企業庁『中小企業 BCP 支援ガイドブック』2018年、帝国データバンク「BCP 策定企業は14.7%にとどまる~効果を実感する企業増加も、策定に向けた課題の解消進まず~」2018年、三浦和代他「中小企業のための事業継続計画(BCP)導入 東日本大震災における事例」(『リスクマネジメントTODAY』2011年)