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日本人にとって虫の音は貴族の風流な遊びだった

2018/10/24 11:35 ウェザーニュース

今年の夏は記録的な猛暑となりましたが、最近はめっきり秋らしくなってきました。
夜、窓の外からコオロギやスズムシの涼しげな鳴き声が聞こえてくると、秋だなと感じる方も多いのではないでしょうか。

たくさんの和歌にも残されている

♪あれまつむしが ないている
 チンチロチンチロ チンチロリン
 あれすずむしも なきだして
 リンリンリンリン リインリン (『虫のこえ』より)

虫の鳴き声は、昔から日本人の暮らしと切っても切れない関係にありました。
最古の歌集である『万葉集』(8世紀)には、すでに「影草の生いたる野外(やど)の夕影になく蟋蟀(こおろぎ)は聞けど飽かぬも」という歌が残されています。

平安時代には、かごに入れた虫の鳴き声を楽しむのが貴族の風流な遊びとして流行したそうです。
清少納言の『枕草子』の『虫は』という章では「虫は鈴虫。ひぐらし。蝶。松虫。きりぎりす。はたおり。」と好ましい虫として、鳴く虫が挙げられています。

『新古今和歌集』(13世紀)には「きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに衣かたしきひとりかも寝む」(藤原良経)との歌がみられます。

貴族や大名たちの風流な遊びだった虫の鳴き声を楽しむ文化は、江戸時代になって庶民にも広がりました。
飼育技術も進歩し、竹細工のかごに入ったスズムシやコオロギなどが「虫売り」たちによって庶民に売られるようになったのです。

虫の音を楽しむ文化は、中国でも唐(7~10世紀)の時代から宮廷を中心に発展しました。キリギリスやスズムシを小さなかごなどで飼って鳴き声を楽しむのが一般的ですが、コオロギを闘わせる「闘蟋(とうしつ)」という伝統的な遊びもあり、今でも庶民の娯楽として盛んだそうです。

ヨーロッパでもみられる虫の音を楽しむ文化

では、虫の音を楽しむのは、日本人や中国人だけなのでしょうか。『オックスフォード英語辞典』には、コオロギを意味する「cricket」の説明として、こんな記述があります。

 ――バッタ目に属する足の短い昆虫。オスは特徴のある音楽のようなさえずる音を発する。

英語の「cricket」は日本のコオロギだけでなく、マツムシやスズムシなども含む小さな昆虫を指しますが、その鳴き声を単なる音ではなく、「音楽のようなさえずり」と捉えているのは、興味をひかれるところです。

19世紀初頭の英国の詩人であるジョン・キーツ(John Keats)は、『キリギリスとコオロギに寄せて(On the Grasshopper and Cricket)』と題する詩で、キリギリスとコオロギの鳴き声を「大地の歌」になぞらえて、夏から秋へ、秋から冬へという季節の移り変わりを歌っています。

古今東西、人々は虫の音に季節を感じ、思いを馳せてきました。何かと気ぜわしい現代ではありますが、たまには虫の鳴き声に耳を傾けてみてはいかがでしょうか。