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“weather”の本当の意味は「暴風雨」?

2018/08/30 14:03 ウェザーニュース

“weather”の意味はナニ?と聞かれると、多くの人が「天気」とか「天候」などと答えると思います。でも、weatherの意味はそれだけではありません。

「英語のウェザーの語源は暴風で、単にウェザーといえば、暴風雨、嵐、荒天の意味になる」などと書かれた本もあります。エッ、weatherって、本来「荒れた天気」という意味だったの!? と驚く人もいるでしょう。

本当のところはどうなのでしょうか。日本女子大学文学部英文学科の教授で、英文学、イギリス史、外国語教育などが専門の佐藤和哉さんの協力を得てまとめました。

weatherの動詞の意味は「荒天に耐える」

“weather”を英和辞典で引くと、「天気」「天候」のほかに、「荒れ模様」「荒天」などの意味も載っています。

動詞では、他動詞で「(荒天など)に耐える」「(危機など)を乗り切る」、自動詞で「外気で変化する」「風化する」などの意味も載っています。

こうして、英和辞典を改めて見ると、weatherには、確かに「荒れた天気」に寄った意味もあるように見受けられます。

「天気の下では元気が出ない」って、どういうこと?

「weather=悪天候」の由来は海や船と関係が?
名詞の欄を見ると、(be) under the weather という熟語が載っていて、「元気がない」「調子が悪い」「健康がすぐれない」「少し酔っている」などの意味の口語表現とあります。どうして元気がなかったり、健康がすぐれなかったりするかというと、「悪天候の影響を受けて」と解説している辞典もあります。

I'm feeling under the weather today.

たとえば、上の文は「今日、ちょっと調子が悪いんだ」といった意味になります。でも、なぜ“bad”などの言葉がないのに「悪天候」になるのでしょうか。その答えは、海や船と関係があります。

under the weather は、もともとは船員たちの言い回しでした。船酔いをした船客や船員は甲板の下、つまり weather の影響が及ばない下=under the weatherに行くように促され、そこから「調子が悪い」などの意味が出てきて、さらに「少し酔っている」などの意味にも派生したと考えられます。

海洋民族のアングロ・サクソン人と英語の関係

英語のもとになっている言語はアングロ・サクソン人が使っていました。彼らは元来、農耕、牧畜、狩猟などを行っていました。これらはいずれも自然に近い営みです。

同時にアングロ・サクソン人は海洋民族でもありました。彼らが築いた大英帝国は16世紀以降、大挙して大海原に繰り出し、植民活動に力を入れました。その過程では、当然、船舶の持つ意味は大きかったでしょう。

大英帝国は19世紀半ばに絶頂期を迎えました。この帝国を支えていたのは海軍力です。

航行や海軍にとって、天候は極めて重要な意味を持ちます。そうしたこともあって、天候に関する言葉はもともと海事用語が多かったのです。under the weather も元来、海事用語です。

イギリス人はとにかく天気のことをよく話題にします。ハンガリーのあるジャーナリストは「(ヨーロッパ)大陸では、天気を話題にすると退屈な人間だと思われる。一方イギリスでは、天気を話題にしないと退屈な人間だと思われる」といった警句を残しています(George Mikes, How to be an Alien, 1946)。

weatherには「悪天候」の意味もある

weatherは本来「荒れた天気」という意味なのか、ということに話を戻すと、weatherはニュートラルに「天候」を表した(表す)こともあるし、風雨などの「悪天候」を表した(表す)こともある、といえるでしょう。古い英語の用例でも、weatherの一語で単に「天気」を表すこともしばしば見られるからです。

多くの日本人は「ウェザー(weather)」の意味を「天気」「天候」と思っているでしょうが、「悪天候」の意味もあることを知っておくと、より良いでしょうね。

参考資料など

取材協力・監修/佐藤和哉 日本女子大学教授