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千葉県沖のスロースリップ、その正体は?

2018/07/17 09:30 ウェザーニュース

2018年6月、千葉県沖で「スロースリップ」現象が立て続けに発生しました。千葉県東方沖では、海側のフィリピン海プレートが陸側のプレートの下に沈み込んでいますが、プレートの境界がゆっくりずれ動いているのです。「大地震の前兆」と危惧する声もありますが、はたしてどうなのでしょうか。

スロースリップが起こるワケ

フィリピン海プレートは1年に数cmずつ移動しながら陸側のプレートに沈み込んでいます。プレート同士は強い圧力で密着しているため、ところどころ固着域(アスペリティ)ができていて、この固着域が一気に剥がれるとプレートがズレ動いて地震が起こります。

ところが、固着域が徐々に剥がれるとプレートも時間をかけながら動きます。これがスロースリップと呼ばれる現象です。地震の場合は10〜20秒でプレートがズレ動きますが、短期的スロースリップなら2〜3分、長期的スロースリップでは数時間〜数日かかることもあります。

スロースリップは昔から起こっていましたが、日本の地震観測網が充実した2000年代初頭から検出されるようになったのです。

千葉県沖のスロー地震で大津波

千葉県沖のスロースリップ現象は、大地震の前兆なのでしょうか? 過去に千葉県沖でどんな大地震があったのか、歴史地震を研究している都司嘉宣さん(元東京大学地震研究所)に聞きました。

「1677(延宝5)年に起こった延宝(えんぽう)房総地震があります。震源は不明確ですが、房総半島沖と考えられます。地震の規模はM8−8.5と幅がありますが、特徴的なのは、地震による被害がほとんどなかったのに、大津波で甚大な被害があったことです」

スロースリップとスロー地震

都司さんが続けます。「明治三陸地震(1896年)も、震度は3−4程度で地震被害はわずかでしたが、大津波で死者・行方不明者約2万2000人という犠牲者を出しました。延宝房総地震も明治三陸地震も、揺れが小さいのに大津波を起こしたのは、“スロー地震”と考えられます」

ちなみに、「スロースリップ」と「スロー地震」は同じ現象ですが、スロースリップの規模が大きくて被害が出ればスロー地震と呼ばれています。

津波浸水高は最大13.5m

都司さんは、延宝房総地震の津波の規模をしらべるために千葉県東岸一帯を現地調査しました。

「主に津波浸水高を調べましたが、勝浦市で8m前後、御宿町で6〜10m、いすみ市の矢指戸(やさしど)では12.8m、最大は銚子市の小畑池の13.5mという結果を得ました。当時の江戸幕府による調査によると、岩船(いすみ市)という集落で57人が溺死、東浪見(一宮町)では97人溺死といった記録もあります。341年前に房総半島がこれほどの地震津波の被害を受けたことを知る人はあまりいません」

スロースリップだから大地震になるのではありません。スロースリップが大規模化すると、揺れが小さくても甚大な津波被害をもたらすのです。千葉県沖のスロースリップの動向から目を離せません。