facebook line twitter mail

ベニバナと『源氏物語』の意外な関係

2018/06/25 06:55 ウェザーニュース

常陸宮(ひたちのみや)の姫君の座高は高く、あまりに胴長に見える。「そうだったのか」と、源氏はガッカリしてしまいます。

そして、思わずその鼻に目がとまります。まるで普賢菩薩(ふげんぼさつ)の乗り物ではないか。あきれるほどに高く長く、先のほうが少し垂れ下がって、赤く色づいている。その上、額がやたらに広くて、顔は間延びしている。

「見なければよかった」。源氏は後悔しますが、それでもあまりに珍しい容貌なので、つい見てしまいます。

これは、ある物語の一部分の意訳です。何の物語か、わかりますか?

ゾウの鼻を持った姫君

答えは『源氏物語』。作者は紫式部ですね。

「普賢菩薩の乗り物」とは「ゾウ」のこと。だから「(姫君の鼻は)あきれるほどに高く長く、先のほうが少し垂れ下がって」と書いているのです。まったく失礼な話ですね。
『源氏物語』の作者・紫式部
醜女(しこめ)として描かれているこの女性の名前は「末摘花(すえつむはな)」。といっても、これは源氏(光源氏)が名づけたあだ名です。時に源氏18歳で、末摘花は18~19歳と考えられています。

末摘花は皇族という高貴な家に生まれましたが、早くに両親に先立たれ、落ちぶれて、琴を相手にわびしく暮らしていました。

そこに源氏が訪れたところ、目にした末摘花の姿に愕然としたのです。

醜い末摘花=可憐なベニバナ?

ベニバナは染料や着色料としてもよく使われる
源氏はこの姫君にどうして「末摘花」と名づけたのでしょうか。

それは、彼女の「鼻が赤い」こととベニバナ(紅花)の「花が紅い」ことをかけたからです。

末摘花はベニバナの異称でもあって、茎の末に咲く花を摘み取って染色に用いることから、末摘花とも呼ばれます。

ベニバナの花期は6~7月。この時期にはベニバナに関する行事も各地で行われます。今年はたとえば、7月7~8日に山形市で「山形紅花まつり」が、7月14~15日に山形県白鷹町(しらたかまち)で「白鷹紅花まつり」が開かれる予定です。可憐な花を咲かせるベニバナが、訪れる人たちの目を楽しませてくれることでしょう。

けなげで一途な末摘花の心に、目を開かれた源氏

ところで、ベニバナの持つ「可憐さ」とはかけ離れた理由で名づけられた末摘花はその後、どうなったのでしょうか。

源氏はある咎(とが)で、須磨(すま)に流されます。その間、末摘花は源氏を待ち続けます。数年後、源氏は須磨から帰ってきて、かつての威勢を取り戻します。

一方の末摘花は困窮し、世話をしてくれる人たちも去り、寂しく暮らしていました。

あるとき、源氏は荒れ果てた末摘花の屋敷の前を通りかかり、自分のことを待ち続けてきた末摘花に再会します。

「なんと純粋で誠実な人なんだ」。そう思ったであろう源氏は、薄情な己を恥じ、末摘花の面倒を最後まで見ることを心に決めたのです。

ベニバナが咲き誇るこの時季、『源氏物語』をひもといて、末摘花の人生に思いを馳せてみるのもオススメです。

参考資料など

『美しくもしたたかな女たちの源氏物語』(桐生操、角川文庫)、『女たちの源氏物語』(西沢正史、光文社文庫)、『あたらしい「源氏物語」の教科書』(堀江宏樹、イースト・プレス)
  • 公式SNSアカウント
  • アナタのスマホに