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南極昭和基地、マイナス60℃以下に耐える建物とは?

2018/01/29 09:52 ウェザーニュース

1月29日は「昭和基地設営記念日」です。日本の第1次南極観測隊(永田武隊長)が南極の東オングル島に上陸した1957年1月29日、そこを「昭和基地」と命名したからです。

実際に昭和基地の建設が始まったのは同年の2月1日。当時の南極観測船「宗谷」が2月15日に離岸するまでに4棟を建設し、そこで11名が越冬(約1年間滞在)しました。昭和基地はその後年々拡張していきます。

短期間で建設するプレハブ工法

昭和基地の最初の4棟を半月で建設できたのはプレハブ工法を採用したからです。建築資材をあらかじめ工場で製作し、建築現場で建物として組み立てる工法です。

当時、プレハブ工法は開発途上でしたが、今では毎年約14万戸建設され、戸建て住宅の16%を占めています。

−60℃、風速80m/sという環境

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建設中の基本観測棟(画像提供:ミサワホーム株式会社)
現在、昭和基地の建設に協力しているのがミサワホームです。約50年前の1967年から関わっています。

当時、要請されたのは次のような項目でした。

▶厳冬期の最低気温−60℃以下、風速80m/sのブリザードも珍しくない過酷な自然条件下でも安全で快適な建物であること
▶建設機械がないため、人力によって建築の素人である隊員が建設できること
▶輸送の問題から、部材の大きさ・重さに制限があること
▶建設期間は最大1ヵ月

こうした条件にミサワホームが提案したのは「木質パネル構造による組立式建物」でした。パネルをつなぐのは釘ではなくコネクターで、分厚い手袋のままハンマー1本で作業ができます。すぐれた断熱性・気密性、何よりも重要な施工性が評価され、居住棟を受注しました。それから半世紀後の現在も昭和基地の建設を手がけています。

南極ならではの木造建築の利点

「よく『南極で木造なの?』と驚かれますが、鉄は熱伝導が高いため、表面温度が下がりやすい寒い日は人が触ったとたん手がくっついて取れなくなります。また、気温によって伸縮する鉄は南極に持っていくとサイズが変わって組み立てが難しくなります」と語るのは、南極越冬隊員として基地建設を手がけたミサワホーム技術部の秋元茂さんです。

「建物の寒さ対策は、北海道など寒冷地仕様の断熱性を少し上げたくらいで十分です。外が−60℃の寒さでも、不凍液を循環させる床暖房を各部屋に導入すれば快適な室温を保つことができますから。

それより重要なのがすきま風が入らない気密性で、窓を三重サッシにするなど気密性を高くしているため、外はブリザードの轟音が鳴り響いていても室内は静かです」

南極基地のシンボル、ドーム管理棟を建設

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ドームが乗った管理棟(画像提供:公益財団法人日本極地研究振興会)
1992年1月、これまでにない大型建築のドームの建設が始まりました。南極は夏といっても−10℃の極寒、ブリザードとなれば風速80m/sの強風が吹きつけます。建設に携わる隊員たちは日本で仮組立の訓練を積んだものの建築に関しては素人同然。30cmの角材でさえ持った途端にあおられ吹き飛ばされたことも。

恐ろしいのはホワイトアウト。吹きすさぶ雪に光が乱反射して上下左右の方向感覚も距離感も失われるため遭難する危険があります。

さらに、寒さのためかパネルと穴の接合部分のサイズが合わずに悪戦苦闘。休日もなく朝8時から夜11時まで作業を続け、奮闘すること90日、建物の頂きにドームを配した巨大な管理棟が完成しました。

「基本観測棟」を建設中

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基本観測棟のパース図(画像提供:ミサワホーム株式会社)
現在、ミサワホームは第58次越冬隊(一昨年12月下旬から滞在)に1名、第59次越冬隊(昨年12月下旬から滞在)に1名、同夏隊(昨年12月下旬から滞在)に2名、計4名のグループ社員を派遣し、「基本観測棟」を建設しています。

基本観測棟は南極の厳しい気候に耐える木質パネル構造で、地上2階建て、延べ床面積416平方メートル、建物の周りへの積雪を抑えるため高床式12角形で、屋上に観測デッキを設置。今年2月に完成する予定。

正月の三が日も建設作業

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秋元茂さん(画像提供:ミサワホーム株式会社)
第59次越冬隊として基本観測棟の建設作業に従事している佐藤啓之さんは、ブログに「1月2日から仕事でしたが、3日に最大瞬間風速60m/s!30m/sオーバーが丸1日!ブリザードにみまわれました。あらためて自然のちから、風の恐怖を痛感。南極なんです」と過酷な環境での作業の様子をつづっています。

ミサワホームは、これまでに延べ床面積約5900平方メートル、36棟を建設してきました。ひとつの建物に1人しかいない状態だと、ブリザードが発生して外へ出られなくなった場合に生命の危険さえあるそうです。

「これからは、ひとつの場所にいろいろな研究室が集まる大きな建物を建てて、みんなで一緒に観測できるような環境をつくり出そうということになりました」(秋元さん)

日本の南極観測の拠点、昭和基地はこれからも進化し続けます。
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