アスリートが実践している熱中症対策 見習うべき方法とは?

厳しい暑さの中でも多くのスポーツは行われています。

アスリートやスポーツ選手が実践している熱中症の対策にはどんな方法があるのでしょうか。過酷ともいえる猛暑の下で活躍するアスリートたちの熱中症対策から、私たちの生活にも活かせるヒントはあるはずです。

暑さ対策は“運動前から行う”

ふだんから暑さに負けない体づくりをした上で、「身体冷却」や「水分補給」でアスリートは様々な工夫をしているようです。

猛暑に限らず、暑い環境の中で運動を行うと、体温が過度に上昇します。体温が過度に上昇すると熱中症の発生リスクが高まるので、アスリートは水分補給や氷・水などで体を冷やす暑さ対策を行っています。しかし、激しい運動をしている最中に『熱産生』を抑えて体温を低下させることはとても難しいことなのです。

暑さ対策は“運動前から行う”ことが重要です。体温を下げておくことは発汗量を抑えることにつながり、身体は温まりにくい状態を維持することができるのです。

熱中症対策(1)外部冷却と内部冷却を併用

具体的には身体冷却を図る方法として、皮膚温を瞬時に低下させる「外部冷却」と深部温の低下に有効な「内部冷却」の2種類があります。

■外部冷却
身体の外から冷却する方法で、皮膚温の低下に効果的とされています。

1)アイスパックを用いた冷却
2)水風呂(冷水浴)、風の利用
3)アイスベスト(保冷剤を収納したベスト)の着用

スポーツの現場で最も頻繁に行われているのは1)や2)で、より効果的とされるのは3)です。

外部冷却を行うと皮膚温は瞬時に低下するため即効性が高く、暑さ対策としては極めて有効な手段といえます。冷たさを感じる感覚器の密度は一般に前額部(おでこ)で最も高く、次に胸、前腕と続きます。氷を額にあてることが好まれるのは、温度を感じる感覚器が密集していることも関係しているようです。

■内部冷却
内部冷却は身体の内部からの冷却、冷たい水を飲む(冷水摂取)ことなどを指します。深部温の低下には、外部冷却のみでは不十分と言われます。

・細かい粒子状の氷(アイススラリーやクラッシュアイス)を飲む

ただの冷めたい飲料よりも、氷のまま体内に取り込むことでその融解熱の分が上乗せされて身体の内部から熱を奪うため、冷却効果が期待できます。

外部・内部冷却の併用はとくに気温や湿度が高いときに効果的です。

熱中症対策(2)「前腕冷却」が効果的

熱中症対策 前腕冷却

猛暑の中で行う練習や試合中にアスリートが行っている効果的な暑さ対策として、前腕部を冷水に浸ける『前腕冷却』があります。

〜具体的な方法〜

(1)バケツなど、水のたまるものを用意する。大きめのクーラーボックスでもよい。

(2)水をためた容器に手掌部から前腕部を浸ける。水温は13~15℃付近で行うと、痛みを伴うことなく感覚的な冷涼感も大きくなる。長いほど効果が期待できるが、短時間でも冷涼感や皮膚温の低下は得られる。

(3)大きめの容器がない場合は、冷やしたペットボトルを握ったり、その水を前腕や手にかけたりするなどして、腕からの熱放散を促す。

同様に、脚を冷やすのも効果的です。腕や脚は体幹部と比較して表面積の比が大きく特殊な血管を備えているため、熱を身体の外に逃がしやすい構造となっています。論文では、体幹部の表面積比を1とした場合、腕は5倍、手指は22倍、足では69倍にもなるといわれています。

熱中症対策(3)体重の2%目安で水分補給

熱中症対策のために重要な水分補給ですが、パフォーマンスを発揮するためには、「運動前と比較して運動後の体重損失が2%以上とならないように、運動中のみならず、運動前から計画的な水分摂取を行う」必要があります。

脱水が体重の2%までであれば著しい体温上昇の心配はありませんが、それ以降1%の脱水につき、直腸温の約0.3℃の上昇と心拍数の増加(約10拍/分)が引き起こされます。具体的には2%の脱水で持久性パフォーマンスの低下、3%以上で瞬発的なパフォーマンス発揮の指標となるジャンプ力が低下するといわれています。

飲料はスポーツドリンク 温度は5~15℃程度

発汗によって失われた電解質を補給するためには、スポーツドリンクが有効です。

成分の目安は糖質であれば、3~8%(3~8g/100ml)、電解質(ナトリウム)は40~80mg /100ml程度(0.1 ~ 0.2% の食塩水に相当)が目安になります。経口補水液はこれより少し塩分濃度が高く、0.3%弱の食塩濃度です。

糖質が入った飲料の吸収速度は5~15℃程度で摂取したほうが、25℃以上より吸収性が高いと言われます。腹痛を起こしやすいなどの問題がなければ、冷やして飲んだ方が効果的です。

水分補給時の量は、10分で150ml(紙コップ1杯分)程度が目安です。運動後に体重の減少が2%以内に抑えられていれば、水分補給量は適量(適切)であったと考えても大丈夫です。

猛暑の中でもアスリートたちは、圧倒的なパフォーマンスを発揮しています。効果的な身体冷却と水分補給の方法を知り、私たちの暑さ対策に役立ててみましょう。

参考資料など

ウェザーニュース・スポーツ気象チーム取材