【連載】二宮清純の「スポーツと気象」(9)

雨ニモマケズ! 中山竹通、五輪への挑戦

文:二宮清純
雨の中を走る中山竹通
雨の中を走る中山竹通
雨や風などの天候から偶然生まれた名場面をスポーツジャーナリスト・二宮清純氏が解説するスポーツノンフィクション。今回は世界屈指のマラソンランナーだった中山竹通(たけゆき)。ソウル五輪代表に選ばれるために、中山に課せられた試練とは──。

ライバルの欠場

その破壊的なレースで沿道のファンを魅了したマラソンランナーがいる。ソウル五輪、バルセロナ五輪日本代表の中山竹通だ。
オリンピックでは残念ながら表彰台に上がることができなかったが、全盛期は間違いなく世界屈指の実力を誇っていた。
中山は生涯で16本(うち2本は途中棄権)フルマラソンに出場している。その中で、最も印象深いのが1987年12月6日の福岡国際である。この大会はソウル五輪代表選考も兼ねていた。
中山の最大のライバルと目されたのが3つ年上の瀬古利彦である。雑草の中山か、エリートの瀬古か――。マスコミ報道も過熱の一途をたどった。
だが瀬古はレース前に左足首を痛め、出場を辞退した。これに噛み付いたのが中山だった。
私のインタビューに中山は、こう答えた。
「瀬古さんは、“神が与えた試練”だとか言っていますけど、確かにそれは神が与えた試練なんです。多少のハンデはあってもその体で福岡に来て、勝ってオリンピックに出ることが試練なんですよ。
僕たちだって、皆、人に言えないケガのひとつやふたつは抱えている。誰だって満身創痍なんです。でも“一発勝負”だからというので無理して出てきた選手もいる。ルールは誰に対しても平等であるべきじゃないでしょうか」
胸のすくような正論だった。
二宮清純(スポーツジャーナリスト)
二宮清純(スポーツジャーナリスト)

1960年、愛媛県生まれ。スポーツ紙や流通紙の記者を経てフリーのスポーツジャーナリストとして独立。オリンピック、サッカーW杯、メジャーリーグ、ボクシング世界戦など国内外で幅広い取材活動を展開。『スポーツ名勝負物語』(講談社現代新書)『プロ野球の職人たち』(光文社新書)『最強の広島カープ論』(廣済堂新書)『広島カープ最強のベストナイン』(光文社新書)など著書多数。