【連載】二宮清純の「スポーツと気象」(5)

夏季五輪特別編!五輪と気象の名場面

文:二宮清純
北京五輪400mリレーの日本チーム(写真:AFP=時事)
北京五輪400mリレーの日本チーム
(写真:AFP=時事)
雨や風などの天候から偶然生まれた名場面をスポーツジャーナリスト・二宮清純氏が解説するスポーツノンフィクション。今回はリオ五輪直前特集。北京の400mリレー、アトランタの「マイアミの奇跡」など五輪での印象的なシーンを振り返る。

北京五輪(2008年)
「雨の400mリレー」

2008年北京五輪では、開会式を快晴で迎えるため、上空の雨雲をミサイルで撃退する計画があるという話を、開会式前に聞いた。実際にそれを行ったかどうかは不明だが、確かに8月8日の開会式は快晴だった。
しかし、陸上男子400mリレーの予選が行われた8月21日、北京には雨が降った。会場となった北京国家体育場のトラックは照明を浴びてガラスの破片のように光っていた。
前回のアテネ大会で4位入賞を果たしたこともあり、塚原直貴、末續慎吾、高平慎士、朝原宣治の4人で構成する日本チームは、この種目に懸けていた。
メダルへの秘策は磨き抜かれたアンダーハンドパスの技術だった。バトンを渡す際の減速を最小限に抑えることで世界と渡り合おうとしたのである。
しかし、この高度な技術は一瞬のミスも許されない。渡し手と受け手の気持ちがひとつになっていなければ、効果の最大化は望めないのだ。
日本は雨を予想して事前に周到な準備をしていた。テーピング用の白いテープをスパイクに詰め、競技場に持ち込んだ。
実はこのテープには重要な役割があった。バトンパスの際、スタートのタイミングを掴むための目印として、それをレーンに貼り付けるのだ。
ところが、招集場に着くとテープを預けろと命じられた。「オフィシャルのプラスチック製の銀色のテープを使え」と指示された。
言うまでもなく銀色のテープは雨が照明に反射して見えづらい。そこで日本の選手たちはスパイクの中に自前のテープを押し込んで競技場に持ち込んだのである。
これがスムーズなバトンパスに一役買った。一方でオフィシャルのテープをそのまま使用したチームはバトンゾーンでのミスが続出し、6チームが途中棄権や失格を余儀なくされた。
転ばぬ先の杖──。これを実践した日本が悲願の銅メダルを胸に飾ることができた背景には、文字どおり水も漏らさぬ雨対策があったのである。
二宮清純(スポーツジャーナリスト)
二宮清純(スポーツジャーナリスト)

1960年、愛媛県生まれ。スポーツ紙や流通紙の記者を経てフリーのスポーツジャーナリストとして独立。オリンピック、サッカーW杯、メジャーリーグ、ボクシング世界戦など国内外で幅広い取材活動を展開。『スポーツ名勝負物語』(講談社現代新書)『プロ野球の職人たち』(光文社新書)『最強の広島カープ論』(廣済堂新書)『広島カープ 最強のベストナイン』(光文社新書)など著書多数。