【連載】二宮清純の「スポーツと気象」(1)

“江夏の21球”秘話

文:二宮清純
最後の打者を空振り三振に仕留めた江夏(写真:産経新聞)
最後の打者を空振り三振に仕留めた江夏
(写真:産経新聞)
雨や風などの天候から偶然生まれた名場面をスポーツジャーナリスト・二宮清純氏が解説する新連載。第1回は今もプロ野球伝説として語り継がれる“江夏の21球”。球史に残る名勝負には意外な“役者”の存在があった。

9回裏無死満塁!

1979年のプロ野球日本シリーズは広島と近鉄の間で争われた。どちらが勝っても初の日本一というフレッシュな対戦だった。
3勝3敗で迎えた第7戦。ゲームは4対3と広島1点のリードで9回裏に突入した。広島のマウンドは守護神・江夏豊。7回裏2死からリリーフのマウンドに立っていた。
球史に残る名勝負の口火を切ったのは、この回先頭の羽田耕一だった。江夏の初球をセンター前に運んだ。すぐさまランナーは俊足の藤瀬史朗に代わった。
続くクリス・アーノルドの打席で藤瀬は二盗を試み、広島のキャッチャー水沼四郎の悪送球で三塁まで進んだ。アーノルド(代走・吹石徳一)、次の平野光泰を歩かせ、無死満塁。ここで広島は前進守備を敷いた。1点もやらないというシフト、すなわち“背水の陣”である。
迎えたバッターは代打の佐々木恭介。前年にはパ・リーグの首位打者に輝いている右の強打者だ。2ストライク2ボールから江夏は佐々木のヒザ元にカーブを投じ、空振り三振に切ってとった。