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世界が驚いた「奇跡のグルメ」ふぐの猛毒・卵巣の毒抜きと気象の関係

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2017/12/08 06:56 ウェザーニュース

日本海とくに北陸地方の冬は「ブリおこし」という言葉があります。12月から1月にかけて雷と風雪が強くなってくるのを合図に寒ブリが獲れ始めます。この時季は、北陸地方特有の曇りや雪、雨の日が多くなり、世界一珍しい食品、「ふぐの卵巣の糠(ぬか)漬け」の仕込みを開始する季節でもあります。

ふぐを食べることが禁止されていた時代も

あたると命を落とすことから「鉄砲」の異名を持つふぐ。豊臣秀吉時代には、ふぐの中毒死が頻発し、藩のお家断絶を防ぐため「ふぐ食用禁止令」が出されたこともあるのです。

ところが、ふぐの部位のなかでももっとも危険だとされる卵巣(大型のとらふぐの卵巣1個で50人の致死量)を美味しく食べる方法があるというのです!

最も珍しい発酵食品

東京農業大学名誉教授で発酵学者の小泉武夫先生によると、「地球上で最も珍しい発酵食品は何か?世界広しといえどもまったく例のない驚くべき食品で、単独で食の『世界遺産』に登録できるほどのものです。あの猛毒が詰まっているふぐの卵巣を食べてしまう民族など、発酵の知恵者である日本人以外見当たりません。それが石川県白山市にあります」

ふぐの卵巣にある猛毒を抜くという技を今に伝えているところは、現在、石川県に7軒ある。白山市美川にある「あら与」もその一つです。

「私たちの仕事は、白山を源流とする手取川の伏流水がなければ成立しません。その年の5~6月に獲れた「ごまふぐ」を豊富な地下水を使って下処理をします。その後1年間塩漬けにします。そこでしっかり引き締まったふぐの子は、さらに糠と麹(こうじ)といっしょに木樽で1年以上漬け込まれます」(「あら与」荒木敏明社長)

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40年以上の歳月を経た紅殻(べにがら)色の木樽

微生物のスーパーな働き

テトロドトキシンの毒性は青酸カリの850倍といわれていますが、無毒化されるプロセスは、まさに自然と風土にゆだねられた微生物による毒抜き。これには驚かされます。

「この仕事には『水』『米』が不可欠です。とくに『湿度』が重要なんです。寝かしている間は『梅雨』の頃の湿度が決め手になってきます。ただし、元々は日本海沿岸で伝えられてきた発酵技術ですが、毒抜きと湿度の関係も経験則ということで、科学的な裏付けはよくわかっていません。そのため、私のところは天保元(1830)年の創業時から受け継がれてきたものですが、製造工程は昔からの方法を一切変えられないのです。もちろんこれまで事故は皆無ですが、石川県以外での製造は許されていません」(荒木社長)

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「あら与」荒木社長

おいしい食べ方を紹介

(1)基本の食べ方:3~4mmにスライスし、アルミホイルで包んでオーブントースターで炙る。
(2)ふぐの子茶漬け:薄くスライスし、軽く炙る。ほぐしたものをご飯にのせてお湯を注ぐ。わさびを添えればいっそう風味が増す。

参考資料など

【あら与 本店】石川県白山市美川北町ル61 TEL:076-278-3370 http;//www.arayo.co.jp/